アルコール使用障害とは
かつてはアルコール依存症と呼ばれていましたが、2014年にアルコール使用障害という名称に変更されました。アルコールという「薬物」により脳が長年侵された結果、一度飲み出すと脳がアルコールを絶え間なく欲しがるようになりコントロールがきかなくなります。以前は『アル中』と非難され、だらしない、不真面目などと人格を否定されることが多かったのですが、気持ちや性格の問題ではなく、アルコールの科学的な作用による『病気』なのです。一度かかると完治せず、何十年経過しても、飲酒をコントロールできるようにはなりません。アルコール依存症患者の平均寿命は52~54才程度と進行性の致死性の病気です。
飲酒を繰り返している状態では自分が置かれている現状を正確に理解、判断することができず、アルコールが原因で起こっている多くの問題を認めることができません(否認)。またご家族のかかわり方が知らず知らずのうちに患者様の飲酒を助長させてしまっていることもあります(共依存)。 「自分にはアルコールの問題はない」などと否認が強かったり、いくら自己管理に努めようとしても、飲めないことで離脱症状(手が震える、動悸、汗を掻く、イライラ、不安感 など)が現れたり、強迫的にお酒を欲したり、なかなか止めにくい状況になっています。また大量に飲酒することで2次的にうつ病や不眠症を併発したりすることもあります。
このように本人の努力だけではなかなかアルコール使用障害から回復することは難しく、下記のようなことに複数心当たりのある方は重症化する前に早めに当院を受診することが望ましいです。
アルコール使用障害のチェック
- ほぼ毎日、日本酒1合に含まれるアルコールより多くを摂取している
※日本酒1合=ビール500ml=焼酎100ml=ワイン2杯でアルコール量は換算 - 飲み始めると止められなかった事がある
- 普通だと行えることを飲酒していたためにできなかったことがある
- 深酒の後、朝迎え酒をしたことがある
- 飲酒後、罪悪感や自責の念にかられたことがある
- 飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことがある
- 飲酒のために、自分自身か他の誰かがけがをしたことがある
- 肉親や親戚・友人・医師から飲酒について心配されたり、飲酒量を減らすように勧められたりしたことがある
治療について
まずは否認を解き、アルコールの問題があることを認識することが第一歩です。そこから断酒を決意してもらいます。多くの人の場合ここまでに時間と労力がかかり、治療の要になります。
決意を固めたところで、断酒・回復が始まります。この際に勉強会のようなアルコールプログラムに参加を希望する場合には、入院、通所先を紹介します。プログラム終了後は同じく断酒・回復が始まります。
外来で断酒を継続するために『治療の3本柱』というものがあり、『通院』、『抗酒剤』、『自助グループへの参加』です。抗酒薬はお酒を飲むと気分が悪くなる薬です。心臓や肝臓などに疾患をかけている方などには使用は控えます。また飲酒欲求を抑える効果が期待できる断酒補助薬も使用することもあります。自助グループは集団の力を利用して断酒を続けていく集まり、定期的なミーティングです。残念ながら特効薬はありません。あるとすればそれは自助グループだと思います。
また、2次的にうつ病、不眠症が現れることはよくありますが、断酒が続くと改善することが多いですが、必要時には睡眠薬等を使用した薬物療法も並行して行う場合もあります。
最後に、本人だけでなく、ご家族にも家族教室などに参加してもらい、依存症に関して正しく学んでもらう必要があります。またご家族は長い間、アルコール問題に巻き込まれ、精神的にも肉体的にも疲弊していると思います。ですから精神的なサポート、場合によっては治療がご家族にも必要かもしれません。